あらすじ

滋賀県に拠点を置く「草の根レコード」は規模の小さなインディーズのレコード会社であったが、創設から半世紀近くにわたり個性的なバンドを輩出してきたことで、関西の業界人のあいだでは一目置かれた存在であった。
社長を務める草野陽水(くさのようすい)自身も元ミュージシャンで、子どもにも音楽をさせたいと思っていたが、一人息子は音楽に興味を示さず、ならばと二人の孫たちに熱心なアプローチを行う。
孫のうち、妹の泉水(いずみ)は音楽に魅了されてスタジオに入り浸るようになり、所属するバンドマンたちに可愛がられながら楽器を演奏する毎日を過ごす。しかし、陽水や他のバンドマンが一番に褒めたのは透明感のあるその声質で、「将来は絶対に歌手になれる」と言われ、本人もその気でいた。
一方、兄の龍水(たつみ)は音楽に才能がないことを自覚し、早々と楽器の演奏に見切りをつける。その後も妹の送り迎えのために事務所に毎日顔を出している中で、陽水やスタッフたちの働きぶりを観察するようになる。特に事務所の経営面に興味を持ち始め、陽水に頼んで付き人のような扱いになる。
兄妹の様子を見ていた陽水は、やがてこの二人が「草の根レコード」を大きく変えてくれる存在になると期待していた。
しかし、所属していたバンドマンたちが解散や転職を余儀なくされる現状を目の当たりにし、二人は音楽で生計を立てる厳しさを知っていく。さらに、泉水が一番懐いていた「草の根レコード」の看板バンドがメジャーへ移籍したことで祖父と衝突。ほぼ同時期にいつも優しく世話してくれた祖母が他界したことで、二人は大きなショックを受ける。
龍水は祖母を亡くした祖父を気遣い、以前と変わらず事務所に顔を出して祖父やスタッフのサポートを行っていたが、泉水はだんだんスタジオに顔を出さなくなっていった。
月日は流れ、泉水が大学に入学した直後、陽水が倒れたという一報が入り、家族は病院へ駆けつける。その場に居合わせた事務所のスタッフから、会社の経営状況がかなり深刻なこと、所属する複数のバンドから解散の申し出があったことなどを伝えられる。
他の家族からは「草の根レコード」の廃業の話が出るなか、経営コンサルタント会社に就職した龍水が代理で事務所を経営すると申し出る。さらに、龍水は「草の根レコード」の顔になれるバンドが必要であるとして、泉水にバンドのフロントマンになること、そして個性と野心を持った仲間を集めるよう説得する。一瞬ためらった泉水であったが、脳裏に幼い頃に祖父から言われた「泉水は絶対に歌手になれる」という言葉が思い浮かび、その場で「やってみる」と宣言する。
龍水と泉水は今の仕事や学業を続けること、泉水が大学を卒業するまでの期間に結果を出すことを条件に、反対していた他の家族も説得し、二人は「草の根レコード」の再建に取り組むことになった。
龍水は危機的状況にある会社の経営状況を自身のアイデアと手腕によって乗り切ることができるのか。泉水は唯一無二の個性と才能に溢れたバンドメンバーを集めることができるのか。
二人の挑戦が始まる…